障害者雇用は決して簡単ではありません。雇用が目的になった瞬間に失敗します。

2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.7%になります。これは従業員38人につき1人の障がい者を雇用する必要があることを意味します。

障がい者雇用は、多くの企業にとって避けて通れない経営課題となりました。しかし、その一方で「採用はできたものの、その後がうまくいかない」という悩みを抱える企業も少なくありません。

私は30年以上にわたり、特例子会社で障がい者雇用に携わってきました。視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害など、さまざまな障がいのある方の採用、育成、定着支援、職場づくりに関わってきました。

その経験の中で感じるのは、障がい者雇用の本当の課題は「採用」ではなく「定着」にあるということです。

あなたの会社は、こんな悩みを抱えていませんか?

障がい者雇用に取り組む企業の担当者から、こんな声をよく耳にします。

「採用しても、1年以内に退職してしまう」

「現場が対応に疲れ果てている」

「雇用率は達成しているのに、組織の戦力になっていない」

「何度採用しても同じことの繰り返しで、出口が見えない」

「うちだけがうまくいっていないのだろうか」と感じている方も多いのではないでしょうか。

実はこれはあなたの会社だけの問題ではありません。日本中の多くの企業が、同じ壁にぶつかっています。

障がい者雇用の本当のリスクは「採用できないこと」ではない

多くの企業が障がい者雇用において最初に意識するのは、「どうやって採用するか」です。しかし実際には、採用できたあとにこそ、本当の課題が待ち受けています。

早期離職――せっかく採用した方が数か月で辞めてしまう

職場不適応――業務内容や職場環境が本人に合わず、徐々に出勤が不安定になる

不調の長期化――メンタル面の不調が続き、休職に至る

休職・復職対応の混乱――誰が何をすべきか分からず、現場も人事も右往左往する

現場管理者の疲弊――個別対応が増え、本来業務との両立が難しくなる

これらは決して珍しいことではありません。むしろ、支援体制が整っていない職場では、ごく自然に起きてしまう出来事です。

なぜこうなるのか? それは「構造的な課題」だから

では、なぜこのような事態が繰り返されるのでしょうか。

よくある誤解は、「本人の能力や意欲の問題」「現場管理者の対応力の問題」として捉えてしまうことです。しかし、それは違います。

根本にあるのは、支援体制の不在と社会資源との連携不足から生まれる構造的な課題です。

障がい者雇用を取り巻く社会には、企業と連携できる専門機関が数多く存在しています。

例えば、

就業・生活支援センター

地域障害者職業センター

ハローワーク

就労移行支援事業所

医療機関

リワーク支援機関

などです。

これらの機関は、障がいのある方の就労や定着支援を専門としており、企業からの相談にも応じています。

ところが、こうした社会資源の存在を把握し、実際に活用できている企業は決して多くありません。

「そんな機関があるとは知らなかった」

「どこに相談すればいいのかわからない」

という声は、現場で非常によく聞かれます。

その結果、本来であれば社会全体で支えるべき課題が、企業や現場管理者だけの孤立した負担になってしまっているのです。

「採用→離職→採用→離職」の負のループから抜け出すために

支援体制が整っていない職場では、こんな負のループが生まれがちです。

採用する → うまくいかない → 離職する → また採用する → またうまくいかない → また離職する

このループの中で、採用担当者は障がい者雇用の対応だけに追われ、本来注力したいキャリア採用や組織づくりに手が回らなくなっていきます。

現場の管理者は疲弊し、「もう障がい者を受け入れたくない」という空気が職場に漂い始めることもあります。

これは担当者や管理者の努力が足りないのではありません。

仕組みがないまま、個人の善意と根性だけで支えようとしているから限界が来るのです。

解決の鍵は、属人的な対応から再現性のある連携体制への転換です。

就労支援、生活支援、医療、リワーク支援などの専門機関と企業が連携し、誰か一人に頼らなくても機能する仕組みをつくること。それが負のループを断ち切る第一歩になります。

障がいのある社員が活躍できる職場は、全員にとって働きやすい職場

ここで少し視点を変えてみましょう。

「障がい者のための特別な環境をつくらなければならない」と感じている方も多いかもしれません。

しかし、障がいのある社員が安心して力を発揮できる職場とは、特定の人だけのための特別な環境ではありません。

それは、多様な背景を持つすべての社員にとって働きやすい職場です。

わかりやすいコミュニケーション、明確な役割分担、無理のない配慮と支援の仕組み。

これらは障がいのある社員だけでなく、すべての社員が力を発揮するための土台になります。

障がい者雇用をきっかけに職場の仕組みを見直すことが、組織全体の底上げにつながるのです。

障がい者雇用の主役は、あくまで企業です

最後に、大切なことをお伝えします。

障がい者雇用の主役は、あくまで企業です。支援機関や専門家は、その伴走役に過ぎません。

大切なのは、企業自身が「どんな職場をつくりたいのか」を考え、設計し、自走できる状態になることです。

外部の力を借りながらも、最終的には企業自身が障がい者雇用を自分ごととして推進できるようになること。それが本当の意味での成功だと私は考えています。

そのためには、正しい知識と、活用できる社会資源を知ることが何より大切です。

お届けしたいこと

このコーナーでは、障がい者雇用に携わるすべての方――経営者、人事担当者、現場の所属長――に向けて、次のような情報を発信していきます。

・現場で起きるリアルな課題とその背景

・社会資源・支援機関の種類と活用方法

・定着支援のしくみづくりのヒント

・ジョブカービング(仕事の切り出し・再設計)の考え方

・合理的配慮の具体的な実践例

・障がい理解を深めるための現場向け情報

「知らなかった」を「知っている」に変えることで、障がい者雇用は必ず前に進みます。

同じ悩みを抱えるすべての方に、少しでも役立つ情報をお届けできれば幸いです。

ぜひ、一緒に課題を解きほぐしていきましょう。

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